生まれたてのこじか日記

短期記憶がすぐ消える暇人の肉体から乖離して独立した“書き手”という非実在存在の備忘録 この内容が本当か嘘かは“書き手”自身にも分からない

無題5話

 確かに読むとは言わなかった。言わなかったけどさ、すげ替え人形は酷いよ。そんなに医者らしくないのかなぁ、私。

彼女が寝ている隙に、彼女の手で記録された方のノートを確認する。自分の見たもの/話し・聞いたことは網羅されているみたいだ。これなら実用に足る。

 それより、気になる記述がひとつあった。
“その女性と自分が話しているところを、天井から見つめていた時の景色を覚えている。”って部分。
多分、浮上させすぎたのだろう。沈み込んでいた意識が彼女の現在地点を越えて、さらにさらに上へと浮上してしまったようだ。
だから、彼女は肉体とは異なる視点で、自分を俯瞰した景色を覚えていたのだろう。もしその乖離がそれ以降も続いていたのならば、それは問題だ。

浮上し続け、肉体との繋がりすらも途絶えてしまった場合、自分を俯瞰することができなくなるどころか、もう二度と肉体を動かすことができなくなってしまうから。
でも、その後の記述を読んだ限りにおいては問題は無いようだ。肉体と同じ視点で、私のことを見ている。自分の半身麻痺を認識している。

 そして、彼女が倒れたのはやはり―――が主原因と見ていいだろう。浮上に伴う彼女の発言に『中学生の頃に脳に腫瘍が見つかった……』というものがあったが、その腫瘍は主な原因ではない。連鎖的にそれが破裂してしまったに過ぎない。

 しばらくは様子を見るべきだろう。
とりあえず彼女が車椅子で移動することが出来るようになるのが先決だ。今は風呂どころかトイレに行くことにすら介助を必要としている。だが、彼女の年齢の時点でその状態だと、この先生きていくのは流石に厳しい。せめて回復期病院に転院出来るくらいにまではなってほしい。

お互いに記録し続けられさえすれば、私の仕事には何の問題もないから。