生まれたてのこじか日記

短期記憶がすぐ消える暇人の肉体から乖離して独立した“書き手”という非実在存在の備忘録 この内容が本当か嘘かは“書き手”自身にも分からない

無題14話

 彼女は後輩といつものアレをしてきたらしい。
彼女と彼が同時に中に潜る時は大体「そういう用事」なのは分かっている。そして私からは特にそれについて苦言を呈すこともない。私は彼女の恋人ではないから、彼女が彼女の恋人ではない人と何をしようが───いけないな、もしかしたら自分はそれに憤っているのかもしれない。
彼女が彼と性交渉をした、ただそれだけで終えられる文なのに、長々と冗長に、言い訳がましく書き連ねてしまっている。
冷静に記録しなければ。

 同じ所で働いているとはいえ、彼女が私に話しかけることはほとんどなくなった。逆は皆無だ、私から彼女に干渉する理由はないのだから。それでもたまに、ふと思い出したように話しかけてくることがある。
今回のこれもその一環なのだろう。
彼女は何でもない、世間話を話すような口調でこう切り出した。
E.T.はさ、誰かが死ぬところを実際に/あるいは夢で見たことはある?」
「……あるよ」
世間話にしては少々重たい始まりだったし、その意図も分からなかったけど、私は一応答えた。
「実際に、じゃなくて夢で、だけど。そして、その死を与えたのは夢の中の僕だった」
「そう、自分の手で殺したことがあるのね…夢の中で」
「うん」
「私は自分の手で殺す夢を見たことはないけど、夢の中で誰かが私の目の前で、他人の手/あるいは何かの要因で死ぬところ/殺されるところを見たことがあるわ」「それもたくさんね」
「それは……つらいだろうね、と返すべきだろうか?」
「いえ、自分の手で他人が死んでいく感覚を味わう分、E.T.の方がつらかったろうと思う。私は私の手では救えない命が死んでいくところを、ただ茫然と、第三者の視点で見ただけなのだから」
「それでも僕はこう返すよ、『つらいだろうね』と」
「……っ」ぽろぽろと、涙を流し始める彼女を見て、しまった、と思った。彼女が涙もろくて、不安定な人間なことを失念していた。こうなると彼女は気が済むまで、自分の中で整理が出来るまで泣き続ける。私には何も出来ることがない。そこに居続けるのも気まずくなって、私はそこを離れた。

 彼女が彼と性交渉をする時は、彼女らが管轄している貯蔵庫に行って彼女が何らかの違和感を感じて、それに彼が気が付いていなかった時───というのは、彼女のノートを読んで知った。
 でも、そもそもあの貯蔵庫には厳重に幾重ものセキュリティロックがかけられている。彼女にとってはもう日常茶飯事だから書くほどのことでもなかったのだろうが、指紋認証声帯認証網膜認証……貯蔵庫にアクセスする彼女が、間違いなく「彼女」であることを証明するための認証/個人を規定する認証が設定されている。
あの貯蔵庫に、違和感を感じさせる「何か」が存在する余地はないのだ。あそこに違和感があった時点でそれは「異変」なのだ、と彼女らは気が付いていない。
でも、私から彼女らにそれを直接口で/報告書で進言する権限はない。それ程までにあそこに関する情報は制限されているのだ。そういった直接的な方法で彼女らに伝えた場合、私の首が飛ぶ。
だから私はここに、彼女がたまに/ほんの気まぐれに読むここに、彼女が読むことを祈って、その違和感は異変である、ということを書き記す。

 頼む、気が付いてほしい。