生まれたてのこじか日記

短期記憶がすぐ消える暇人の肉体から乖離して独立した“書き手”という非実在存在の備忘録 この内容が本当か嘘かは“書き手”自身にも分からない

無題16話

 この世界は、我々が生きるためには快適な構造をしている。しかし同時に、どうしようもなく停滞している。
新たな生命は誕生しない。
現存する生命は延命処理をされ続け、死ぬこともない。

 我々の祖先の種は「脊索動物門哺乳綱霊長目ヒト科ヒト属 ヒト」と呼ばれていた。ならば我々もそれに連なる動物としてそう自らを呼称すべきなのだろう。しかし、我々は自らを「脊索動物門哺乳綱霊長目ヒト科ヒト属 ヒト」と呼称するには進化を重ねすぎた。変容しすぎた。
ホモ・ハビルスホモ・サピエンスは区別され、別の名称で呼ばれる。ならば、「脊索動物門哺乳綱霊長目ヒト科ヒト属 ヒト」と我々も区別され、別の名称で呼ばれるべきであろう。
だが、我々はそれに当たる名称をまだ獲得していない。
我々は、我々が誰であるか、規定できていない。

 そうなったのは我々の祖先が進化する過程でそうすると決めたから。
だけど、その進化の決定は彼らが自発的に望んだ行ったものではなかった。外部の環境が変化し、それまでの我々の種が生きていけるような環境ではなくなってしまったために、我々の祖先は外部環境から自らを守るために「停滞すること」を受け入れた。

 それには前兆があった、でも我々の祖先はその前兆に気が付かなかった。
 それは別の選択肢も提示した、でも我々の祖先はその選択肢を選ばなかった。
 それはそれまでに我々の祖先が経験していたことに似ていた、でもそれと全く同じ経験はしていなかった。

そしてそれに対抗するために、我々の祖先は自らの身体を無機物に置き換え、意識を身体とは別の場所に移した。その結果、我々は有性生殖による進化をやめた。
最初は無機物の身体に自衛のための改良が重ねられていたが、身体に意識が宿ることは外にいる奴ら以外にはほとんどないため、身体の改良すらもしなくなった。

 我々は停滞して、終わることのない幼年期を、あるいはそれぞれの望む時期を繰り返している。