生まれたてのこじか日記

短期記憶がすぐ消える暇人の肉体から乖離して独立した“書き手”という非実在存在の備忘録 この内容が本当か嘘かは“書き手”自身にも分からない

無題17話

“ 休みが取れると、私は決まって中に潜る。それにはまず、外にはまともな娯楽がない───という理由がある。それに加えて───不便なことだ───外からのものを除くあらゆる通知/配達物は全て中のボックスに届いてしまうため、定期的に確認しに行かなければならないのだ。
まったく、外にいる人間にはとことん不親切な世界になってしまったものだ。

 だから今日も、私は何か届いている物がないかを確認するために潜ってきたのだが……。
いる。家の玄関前に、何かがいる。呼び鈴を押しているようだ。私はこう見えて、いや、見た目通りかもしれないが、動物と関わるのは得意ではない。それが知らない/得体の知れないものなら尚更だ。
直接の接触を避けるために、裏口からの侵入を試みる───成功。
そして足音を殺しながら玄関の方へ向かう───成功……ん?うっすらと見える玄関に届いている配達物の量が尋常ではない気がする。玄関前にいる何かと関係があるのだろうか。
引き続き気配を消しながら、玄関に届いていた郵便物の内の一通を手に取る。薄緑の封筒に、「親展」の表記がある。ここには私宛の物しか届かない。構わず開ける。
封筒の中から紙を引きずり出した時に、しまった、どこから配達された物なのか見ておけば良かった、と思ったが、自分の手はもう既に中身を読むための動きを始めていた。
そこには「今期の《評価》に関するお知らせ」という題から始まる、生命の温かみを感じさせない───これを書いているのは動物ではなかろうから当然だが───文章が書き連ねられていた。いかん、目が滑る。
それでも必死に文字を拾い読むと、どうやらこれには「今期の《評価》が規定に達していないこと」が書かれており、続けて「罰科金として今期の配当から一定額を徴収されること」も書かれているみたいだった。
遊びすぎたようだ、普通から逸脱しすぎたようだ。
 ならば、大量に届いている配達物のほとんどは督促状で、玄関の外にいる何かはその支払いを催促しにきた職員かそれに類する何かだろう。
諦めて、玄関の鍵を開けた時にそこに立っていたのは悪く言えば凡庸、良く言えば高い《評価》を受けるであろう姿の男性だった。
ニコニコ、ニコニコと笑みを浮かべて突っ立っている男は、私が扉を開けても何も言わない。いつからここにいるのかも分からない。

「罰科金でしょう?払うのでちょっとそこで待っていてください」何も言い出さない彼にしびれを切らし、私からそう切り出した。
でも、返ってきたのは
「いいえ、私にはそれを徴収する権限はありません」という言葉。ならばこいつは何者で、どうしてここにいるのか。そして続けて
「《評価》のことでお困りだろうと思いまして、勧誘に参りました」と言ってのけた。
都市伝説かと思っていた。都市伝説としては知っていた。
だけど本当に《評価》が規定に達していない人間のところに救済が勧誘しにくるとは思っていなかった。目の前にいるこの男は救済の信者だ───!
 慌てて扉を閉めようとした、だが足を挟み込まれ、閉め切ることが出来なかった。
言葉を返したら負けだ、私のように言葉が不得手な人間は下手に言葉を返すと付け込まれる。ただただ、目の前の扉を閉め切ることにのみ心血を注いだ。
少し背を屈めて男の足だけを凝視して、どうにか自分の領域から追い出そうとしていたところ、私の頭上の扉の隙間から投げ込んだのであろう、声と、小冊子が降ってきた。
「VVは貴方を導く」と言い残して去っていった男の背中を目で追う余裕すらなくて、足が抜かれた瞬間に私は扉をバタリと閉め切った。
 地面に落ちた小冊子には、
「より美しい停滞を」
「美しく統一された姿こそ本来の姿」
「より高い《評価》でより美しい生活を」等のスローガンが躍っている。
だが何より印象的だったのは、最終ページに掲載されていた、どこにでもいるような男性アバターの顔写真と、その下の「ヴァージニア・ヴァヴァサー」の文字。どうやらこの、男なのか女なのか分からない人間が救済のリーダーらしい。外にかまけすぎて救済のこともよく分かっていなかった。そして、
「全ての生命に、美しい停滞をもたらす───V.V」の文字。

 私がV.Vの存在を知ったのは、これが最初だった。