生まれたてのこじか日記

短期記憶がすぐ消える暇人の備忘録

息を吸って、吐く

 毛布の中で目を瞑り、息を吸って、吐く。
誰にでも出来るような、あまりにも単純な行動だ。

 最近ずっと、寝ても寝ても眠くて眠くてたまらない。目を瞑って息を吸って吐くだけで、いつでもどこでも眠りにつけそうなくらいに。
多分夕食後に飲む薬のせいだろう。
 それに加えて、一日中身体が重く感じる。隙があれば重力に身を任せて頭から足の先まで全てを何かに横たわらせたいくらいに。
これは多分、就寝前に飲む薬のせいか、あるいは今かかっている病の症状だろう。

 身体を地表に対して垂直に保つだけで疲れる。だから可能な限り、横になっている。
 光を目に入れるだけで目がチカチカして疲れる。だから横になったらすぐに目を瞑る。
 雑音も嫌だ。だから毛布を被る。
 要するに、世界から情報を得るだけで疲れてしまうのだ。

 そうして、真っ暗で音もしない、重力のない空間で、ただ、息を吸って、吐いて、吸って、吐く。

 そうしていると、少し冷たい空気が鼻腔を掠め、肺に入っていく感覚を普通に過ごす時/何かをしている時よりも鮮明に感じる。
その感覚は、生だ。
胸一杯に息を吸い込むと、苦しくて苦しくてたまらなくなる。生きるために必要な行為なのに、苦しくなる。どうしてこんな苦しい思いをしてまで生きねばならぬのだ、と思うほどに。
吸って、吸って、吸って、苦しくなって、とうとう吐く。

 すると、少し生ぬるくなった空気がじんわりと身体から抜けていく。この時の感覚は吸った時のそれよりは鈍い。存在感もない。
その感覚は、死だ。
吐き出す時に、出て行く気体は脳味噌のどこからか記憶を引っ張り出してきて、私を苦しめる。
苦しさから解放されるために吐き出したのに、それにつられてまた新たな苦しみが顔を出す。
これもまた、真っ暗で音もなく、重力すらもない空間で起きる。

 頭が重い。鉛のようだ。
現実から逃れようとする度に、呼吸によって逃れられない生と私には手の届かない死を自覚させられる。
存在感のある生を取り込んで、存在感もない死に逃げられて、自分が生きていること/まだ生きながらえてしまっていることを認識する。

 最近私は、何をしても楽しいと思えない状態によくなる。理由はわからない。思い付かないからではなく、思い当たる理由がありすぎてわからないのだ。
 そういう状態の時、自分が寂しい人間であることを自覚して、泣きそうになる。溜め息をついても(また死が逃げていってしまった)と思うようになる。
泣きそうになるだけで実際に涙が出ることは最近とんとなくなったけど、この身体がこうも乾ききっていなければきっと出てくるのだろう。

 どこにも自分の居場所がなくて、誰も自分の味方がいないような感覚。
息を吸って吐くことだけに意識を向けるあの空間は、そんな寂しい感覚を浮き彫りにさせる。