生まれたてのこじか日記

短期記憶がすぐ消える暇人の肉体から乖離して独立した“書き手”という非実在存在の備忘録 この内容が本当か嘘かは“書き手”自身にも分からない

あの日見つけ出さなきゃいけなかったのは、

 「それがどうした」という言葉だったのだろう。


 朝、目が覚めた時、何の脈絡もなく、昔よく聴いていた曲のメロディーが頭の中で流れ始めた。誰の曲か、はここでは伏せることにする。
 私はその人の曲が好きだった。今思い出してみてもしみじみと良い曲だと、好きだと思えるような、他に類を見ない系統の曲。当時も好きで好きで、繰り返し聴いていた。

 その曲の歌手のことは、父親から借りたCDで知った。その後も度々、父親からCDを借りることになる。それくらいに、気に入っていたのだ。

 ある日の夕方、私は父親から、その曲や歌手についての話を聞いていた。作詞作曲はこうで、とか、他にはこういう曲も歌っていて、とか。そこまでは良かった。全然良かった。
だけど続けて彼が言い放ったのは、
「でもこの人、容姿は悪いんだよね」という言葉で。
 思いがけない言葉に驚いた上、実際その歌手の容姿すら知らなかった私はその時、
「へぇ」とだけ返した。

 そのことを思い出した今になって、いくら父親に反抗することが怖くてたまらない自分であっても、あそこで返すべき言葉はあれではなかった、と悔やんでいる。

 そもそも容姿って、そんなに大事なことだったのか?
そして父親は、人の容姿についてどうこう言える身分なのか?
そして、その人自身がどうであれ、曲が素晴らしいことには変わりなくないか?
様々な疑問が、今になってふつふつと沸き上がってくる。

 私はただ単に、その人の紡ぎ出す歌が、声が、世界観がとても好きだった/今でも好きだ。それだけで、その気持ちだけで良かったのだ。

 だから、あの日に脳味噌の中をかき分けて、私が見つけ出さなきゃいけなかったのは、
「それがどうした」という、ただ自分の大切な物を守るための、ほんの少しの反抗だった。