生まれたてのこじか日記

短期記憶がすぐ消える暇人の肉体から乖離して独立した“書き手”という非実在存在の備忘録 この内容が本当か嘘かは“書き手”自身にも分からない

きっと、この先一生それから逃げ続けなければならない。耳を塞ぎ続けなければならない。

 思ったより根は深かったようだ(他人事)。


 寝る前の薬を飲んで、部屋の電気も消して、目を瞑って眠りの世界に落ちるのを待っていた。もう少ししたら合宿だなぁ、なんて取り留めのないことを考えながら、待っていた。

 それがトリガーだったのか、思い出してしまった。あの夏、今は所属していないサークルの合宿で練習した時の光景を。
そこからはもう止め処なく溢れ出してきて、
やりたかった曲、
やっていた曲、
やった曲、
やりたかったこと、
やる予定だったこと、
その全てを思い出して、精神安定の効用がある睡眠薬のはずなのに、寝転がって安静にしているのに、呼吸が苦しくなった。

 倒れた後に聴きに行った演奏会で、やるはずだった曲を、自分も彼らと並んで舞台の上で弾くはずだった曲を、観客席から聴いていた。聴いていただけだったのに、急に涙が零れて溢れて止まらなかった。

 その次の秋、学園祭にも聴きに行った。だけど目当てにしていたその曲の、その並びを見た途端にもう耐えきれなくなった。私がいたかった場所に、私が座りたかった場所に、私が苦手な───ここまできて誤魔化すのはやめよう、私が嫌いな人が座って演奏していた。

 その後の演奏会本番に行ける程の精神力も残っておらず、今に至る。

 退院後の正月はつらかった。どこもかしこも邦楽を流す。私が聞きたくない音を、垂れ流す。和食のお店でも、BGMとして流していた。

 とーん、てーん、しゃーん。しゃしゃこーろりんつーぅとーんてーんとーんしゃん。しゃーんてーん、しゃしゃてーんしゃしゃてーん、つーぅ……

 はろーりろーつれーつちーりろーつれーひーちちーれちー……

 まだ記憶力があった頃に暗譜していた譜が、うろ覚えながらも頭の中に流れて私を責め立てる。

 正直言って、つらい。もう二度と、聞きたくない。それだけやりたかったのだ。それだけ、弾くどころか調弦すらも出来ないこの身体を、憎いと思っているのだ。

 だから多分、私は今後も演奏会には行かないだろう。
自分のやりたかったことを、
自分が立ちたかった場所でやっている、
自分の嫌いな人間の姿を見たら、
きっと私は発狂してしまう。

 私はもう、死ぬまでずっと、その音から逃げ続けることになるのだろう。耳を塞ぎ続けるのだろう。