生まれたてのこじか日記

短期記憶がすぐ消える暇人の肉体から乖離して独立した“書き手”という非実在存在の備忘録 この内容が本当か嘘かは“書き手”自身にも分からない

「私はわたしを殺したい」

 人の気持ちが分からない。
それ以前に自分の気持ちも分からない。何の不思議もない、だって私は、自分の気持ちを一般的で大衆的な、いわゆる“平均的な人間”に寄り添わせようとしているのだから。そこに自分はないのだから。
 私は自分が自然に抱く気持ちを異常だと思っている。自覚している。そして、だから生きづらいのだとも思っている。
ならば。ならば、と。私はせめて何が正解かも分からない、“平均的な人間”になれるように、自分をそこに近付けようとしている。
 私の個性は個性というより異常性であり、明らかに日常生活を送るのに支障を来している。だから私はこの個性/異常性を取り去らなければならないと考えている。
 自分でも訳が分からないが、私が自然に抱く感情は往々にして、世間一般の外れ値を指し示す。普通ではない値を出す。
どうしてその感情が自分の中から沸き起こるのかも分からないままに、その感情に身体を支配されている。自分を自分で制御できないのならば、それはもう自分ではないような気さえしてくる。考えれば考えるほどに泥沼だ。

 “わたしの異常性に嫌気がさしている、普通になりたいという感情によって動く自分”を「私」と呼ぶことにする。
 “勝手に内側から湧き上がってくる、制御できない感情によって動く自分”を「わたし」と呼ぶことにする。

 私とわたしは同じ肉体の中の同じ器官の中に同居していながら、乖離している。
私は対外的な自分の立ち位置を気にする。
私にはわたしのことはよく分からないけれど、推測するにわたしはもっと根源的で本能的だ。そして、まともに成長出来ていれば制御出来ているのであろう感情に振り回されていて、外側のことも内側のことも、何ひとつ気にすることが出来ていない。気にする余裕がない。

 記事を書いているのは大抵私だ。
書いている最中に、押し寄せてきた感情に振り回されたわたしが表層に出そうになった時、私は一旦端末の電源を切り、わたしが記事を書けないようにする。わたしを記事の編集画面から遠ざける(常にそれが出来ている訳ではないが)。そうしてわたしの嵐が過ぎた頃合いを見計らって、記事の編集に戻る。

 わたしは大抵、疲れ切った時に出てくる傾向にある。傾向にある、というだけで、必ずしもそうという訳でもない。疲れ切った時でも抑え込める時もあれば、平時だとしてもひょっこり顔を出してしまう時もある。それくらいにわたしは完全に、私から剥がれきってしまっている。

 私はわたしを亡き者にして、“平均的な人間”になりたいと願っている。
奇異の目で見られないようになりたいと願っている。
処方されている3錠の精神安定剤は、わたしを抑え込む力を与えてくれるけど、完全に消してはくれない。弱体化させるだけ。

 私は理解している。私の基盤には、わたしがいるということを。わたし無くして私は存在出来ないといつことを。
 だけど私は、“この”わたしじゃない、“別の”わたしを土台にして安定したいと思う。
だから少なくとも、今我が物顔で私の基盤になっているわたしを消して、消して、消しきらなければならないのだ。別のOSを入れるために、今のOSを消さなければならないのだ。

 私は記憶に依る部分が多いけど、わたしはそうではないらしい。それよりももっと、稚拙なものに依っているみたいだ。
私がまさに現在進行形で経験している/し続けている記憶喪失は、わたしではなく私を削っていく。記憶が消えていく度に、私よりもわたしの力が増していく。

 それを食い止めるためには、私は一刻も早く“平均的な人間”になるかわたしをすり替えるかするしかないのだけれど、どちらも上手くいっていない。
私が“平均的な人間”になりたいと願う一方で、
わたしには“平均的な人間”という概念すらない。だから(こそ)わたしは好き放題やっているみたいだ。

 私はわたしに支配されている時、とても苦しく感じる。私が諦めたものをわたしは諦めていない。そのギャップが私を苦しめる。
諦めた方が幸せになれると私が思っているものを、それでも聞き分けのないわたしは諦めないでいる。
表層に出て来たわたしは、それを諦められない上で
「わたしにはどうにもならないこと」は理解しているようだけど、それでもやっぱり諦められなくて涙腺を弛ませる。場合によっては大泣きする。声を出して泣く。泣くくらいなら諦めればいいのにと私が思うのも構わずに、わたしは泣いて、泣き続ける。

 どうして私の土台は“この”わたしなのだろう。
確かに私の生育環境には問題があったけど、問題しかなかったけど。それが理由だとしたら、私は普段のわたし以上に泣いてしまうだろう。
だってそれじゃああまりにも救いがなさすぎる。この家に生まれ落ちた瞬間にこうなることが確定していたということになる。私にはどうにもならないじゃないか。
私は自分で出来ることは自分で解決してきた。だけどこれは、私には解決できないことだ。無理だ。お手上げだ。そもそも生まれたことが間違いだ。生きていることも間違いなのか。

 睡魔が私を押し込めて、代わりにわたしを連れてこようとしている。
 だけど最後にこれだけは書いてやる。
私はわたしを許さない。いつまでも生きていられると思うなよ。この先ずっと、わたしが死ぬまで、私はわたしを殺したいと願い続けるだろう。