生まれたてのこじか日記

短期記憶がすぐ消える暇人の肉体から乖離して独立した“書き手”という非実在存在の備忘録 この内容が本当か嘘かは“書き手”自身にも分からない

多分数年後の自分も変わらず、部屋でビールを飲んでポカポカしたまま寝るんだろうな

 正直に言うと、緊張していた。怖かった。


 最後に直接会ったのがいつかも思い出せないような、その上最後に交わした会話が口喧嘩(一方的ではあったが)の末の停戦協定、みたいな友人に会うということが。

 だから私は武装した、心を。
前日夜の薬は飲み忘れないようにするのはもちろんのこと、服装も江口に会った時と同じような服を着て髪の毛も巻いて。とにかく、自分に出来る限り外見を固めることで心を武装した。
 そして直前に、やっぱり怖くなって近くの立ち飲み屋でビールを二杯だけ飲んで、恐怖心を吹き飛ばそうとした。アルコールは若干それを霞ませて/麻痺させてはくれたけど、それでも怖かった。
相手にどんな顔をして会えばいいのかも、実際に会うまで全く分からなかった。


 うまく笑えていただろうか、うまく口は回っていただろうか。そんなことを、全てが終わった今になって思い返す。


 待ち合わせていた店の前にいた相手は、(少なくとも一見した限りにおいては)昔と変わらぬ表情で私に話しかけてきた、
「ちょっと早いけど入ろうか」と。

 店に入って案内された席に着いて、飲み物を頼んで落ち着いたところで、頭の中でゴングのようなものが鳴ったような気がした。大げさだと思われるだろうけも、それくらいには本当に緊張していたのだ。
 だけどそんな私の心中とは裏腹に、相手は昔二人でよく行っていた店で交わしていたような、別にそんなに重たい訳でもない、くだらない話を切り出した。
それは私にとって意外なことだった。でもそれが、それだけのことが嬉しかった。まるで数年前の焼き直しのようにすら思えた。
多分、あまりにも人に会えていなかったということもあったのだろう、とは思う。
 会えなかった間の私のこと、相手のこと。それらを話して聴くだけで、会えなかった間の空白がほんの少し、埋められたような気がした。

 思ったよりあっという間に終わった再会で、別れた後から
(そういえばあれもそれも話したかったけど、全然話せてなかったわ)と思い出すくらいで。

 始まる前はどれだけお通夜な食事になるのだろうと緊張していただけに、余計に楽しく感じられた。
そして、相手のその“会話相手を楽しませることが出来るほどに高いコミュニケーション能力”は未だ健在であることを知って、
(あぁ、やっぱり私はいつまで経ってもこいつには敵わないんだろうなぁ)などと、昔も感じていた諦めにも似た憧れを抱いた。一歩間違えれば嫉妬に変わってしまいそうなくらいに危うい憧れを。

 再会とビールの余韻を味わいつつ電車に揺られ、バスに揺られ、家に着いて身体をきれいにして。
部屋着に着替えて布団に飛び込んで、鼻を抜ける麦酒の空気を吐いたり吸ったりしながら、
(きっと私は数年後も、たとえ家に一人でいようとも、こうして麦酒の空気に包まれながらいい気分で眠りに就くのだろうなぁ)だなんて考えていた。