生まれたてのこじか日記

短期記憶がすぐ消える暇人の肉体から乖離して独立した“書き手”という非実在存在の備忘録 この内容が本当か嘘かは“書き手”自身にも分からない

ここまでよく耐えてきたな、と思う

 父親との二人暮らしが始まってからもう10年弱経つ。


 今から思い返すと、よくそれだけの間この状況に耐えてこられたな、と自分でも思う。
自分の家に帰ることを、毎日自身に課せられた懲役刑のようにしか思えなかった。本当に、真綿で首を絞められ続けるような生活だった。いっそのこと殺してくれればいいのに、と、言ってしまいたくなるくらいの生活だった。もっとも、そんなことを口に出した途端に例の脅迫が始まることが目に見えているから言わなかったのだけれど。
「じゃあ学校やめるか?」
「母親のところにでも行って、母親とその彼氏?の人?に優しくしてもらえばいいじゃん」
「俺に逆らうってことはそうしたいってことだよね」etc.

 私の家の中には、ろくに首をつることが出来るような場所もない。何もかもが低くておんぼろで、低身長で窶れた私をぶら下げるだけの強度すらない。私は自分の住処で死ぬことが出来ない。
どうするか、どこか遠いところの山奥まで電車を乗り継いで行こうか。
それとも何かに轢いてもらって、親に復讐してやろうか。
最近思い浮かんでくるのはそんなことばかりだ。先のことなんて考えたくない。不幸しか待ち受けていない、未来のことなんて。
 未来どころか明日、明後日、明明後日のことすら考えたくない。
やりたくないけどやらなきゃいけないことから逃げ出したい。義務から目を逸らして、死ぬ方法を直視したい。でも出来ない。もしもまた失敗したとしても、一刻も早く少なくとも父親から逃げる道はある状態にしておきたい。

 この10年弱が異常な状態だったのだ。
自分の老後のための投資として子供を育てるような(少なくとも父親からはそういう目的があったと直接聞いた)祖父母、両親の元にいるのが異常だったのだ。
「もし俺がよぼよぼのおじいちゃんになっても老人ホームなんかに入れないでちゃんと面倒見てくれよな」と、父親。
「ここまで育ててやったんだから」父親。
「お前の母親は頭がおかしかった」父親。
「お前みたいな馬鹿にはどうせ分からないだろうと思うけど、」父親。
「馬鹿な子だねぇ」父親。
父親。父親。父親。うるさい。うるさい。うるさい。

 父親の声は、四六時中私の耳に群がってくる。父親がいてもいなくても、私の耳が電灯であるかのように群がってくる。特攻を仕掛けてきては、不快な音を残す。その繰り返し。
 彼の言うとおり、私は頭がおかしいのだろう。彼の言葉を借りれば、私を産んだ女のように。
群がってくる声を追い払いたくて、耳栓代わりにイヤホンで耳を塞ぐ。無音のイヤホンで守りを固める。
それでも声はやってくる。もう嫌だ。勘弁してくれ。私はうるさいのが本当に苦手なんだ。静かにしてくれ。
 実際に今この瞬間聞こえている音ではないことは分かっている。鼓膜が震えていないことも分かっている。分かっているけど、嫌な音が頭の中で何度も何度もリピート再生される。止まってくれない。


 この10年弱、両親、祖父母、それ以外の誰かたちから浴びせられ続けてきた誹謗中傷が、頭の中から消えてくれない。