生まれたてのこじか日記

短期記憶がすぐ消える暇人の肉体から乖離して独立した“書き手”という非実在存在の備忘録 この内容が本当か嘘かは“書き手”自身にも分からない

無造作に放棄された責任を、私が拾った

 私は自分が無能であることを自覚している。


 昔から、母親がまだ家にいた頃から、私は親に
「お前は出来ない子」
「足りない子」
「常識がない」
「そんなんじゃ誰からも必要とされない」
「何でまだいるの」
とか色々と、ずっと言われ続けてきた。
 だから私は、自分が無能で、何にも持ってないことを知っている。そしてそのように振る舞うのが一番良いからそう振る舞っている。

 無能だから自重する。可能な限り、出しゃばることはない。
(自分も前はやりがちだったから人のことをとやかく言える立場でもないが)相手の意見が間違っていると思えばきちんと反論するけれど、相手に議論する気がなく、ただ自分の意見を押し通したいだけだと分かったらすぐに意見を引っ込める。だって時間の無駄だから。
議論によって、双方が最初に提示した意見からよりよい答えを導くべき場面で、片方が自分の意見以外見えていない/他人に認めさせることしか考えていない、という状況で、こちらが相手を説得してまで議論をしようとする気なんて起きない。
 私は無能ですし、あなたを納得させられる程の案すら出せないだろうと思います。あなたがやりたいのならそれでいいと思いますよ、と。
あぁ、そこまでやりたいなら勝手にすれば?と。
そこまで自分のやり方にこだわるならば、自分こそが導き手になろうとするのならば、当然自分の中にゴールまでのプロセスがあるのだろう?じゃあ私たちを導いてみるといい。そんなことしか思い浮かばなかった。

 今に限った話ではない。小中高でもそういうことはあった。その都度私は場の空気を乱さないようにへらへらして、内心で静かに今動いている案が駄目になった時のためのリカバリ案を練って備えていた。無能は無能なりに口を出さずに、リカバリ案を使うような事態に陥りませんように、と願いながら、念のために考えてはいた。幸いなことに、小中高では考えたリカバリ案を使うような最悪の事態に追い詰められることはなかった。

 だけど、大学。大学では、その状況まで追い詰められた。
常日頃から無能と言われ、自らも無能と自覚しているこの自分がリカバリ案を考えるだけに留まらず、集団に対して提示しなければならない状況まで、所属する集団が追い詰められた。
言っちゃ悪いがリーダーを買って出た人間の見込み違い、計画破綻だ。だけどそれを顧問にポロリと洩らしたら、
「(いくらリーダーと言えど)ひとりに責任を押し付けるのはおかしい」と言われた。
リーダーは他のメンバーに発言をさせないように牽制していて、とてもじゃないけど口を挟める/リーダーの意向に反発して時間を浪費できるような環境ではなかったのに───まぁ顧問はそれを知らないだろうが───、だ。むしろ、
「リーダー以外が悪い、何ならそれを自分に言う/和を乱すお前(筆者)こそが悪い」とでも言わんばかりに非難された。

 私は無能だ。そして私は、声高な無能が一番迷惑なことを知っている。無能でも大人しくさえしていればそうしないよりはマシだと知っている。だから極力自分を抑え、指示に従うことに徹してきた。周りも私を無能だと見做していた。
 だけど集団が追い詰められた途端、集団の空気も含めて全てを支配してきたリーダーが判断力を失い、集団の船頭が消えた途端、集団の誰も彼もが口を噤んだ。目を逸らした。
責任は自分にない、誰にあるかは知らないけれど、少なくとも自分にはない、とでも言いたげに、彼らは気配を遮断した。
 それでもその集団が提出すべき課題の納期は迫っていて、何でもいいから完成させる必要があった。言葉を交わす必要があった。
 だから無能な私が、声高な無能こそ迷惑だと自覚しながらも無能なこの私が、声を上げた。
仕事を回した。
人員不足により最善策を実行できなくなったから、次善の策を提示した。それでも元いたリーダーの影響力というものは強かったようで、
「(リーダーがもし今ここにいたら、リーダーは)その案に納得しないと思う……」と、他のメンバーに弱々しく反論された。
何がリーダーだ。自分の練った計画が破綻した途端に何も考えられなくなって消息を絶つ人間が何だ。
今やるべきはリーダーにおもねることではない。納期に間に合わせることだ。
 はぁ、どうして無能な私が動いているのだろうか、一番駄目な状況じゃないか、そう思いながらLINEを動かしていた。

 私は無能だから、
能力以上に期待されたくなかったから、
出来ない仕事をしたくなかったから、甘んじて最底辺の待遇を甘んじて受け入れてきた。
なのに万事がどうにもならなくなってから放り投げられても/責任を放棄されても困る。
放棄された責任は、誰かが拾わなければどうにもならない。他のメンバーは誰も拾おうとしなかった。見ようともしなかった。
だから私がそれを拾った。


 無能な私が、主導権を握る事態に陥ってしまった。