生まれたてのこじか日記

短期記憶がすぐ消える暇人の肉体から乖離して独立した“書き手”という非実在存在の備忘録 この内容が本当か嘘かは“書き手”自身にも分からない

おはなし3話

 私は、自身が親の身体から切り離された瞬間のことを覚えている。親は私が生まれたことを大層喜んでいた。側にいたスタッフから声をかけられるまでは。

「今回の個体は脳に重大な欠陥を抱えています」「私が何を言いたいかは当然分かっていると思いますが……どうしますか?」

 

───瞬間、生誕の喜びは、一瞬にして慟哭に変わった。

「そんな……!」「どうして、どうして……」

「あなたのお辛い気持ちはこちらにも響いてくることをお忘れなく。私たちだって辛いのです」

「………。」

泣きじゃくる親は、その言葉を受け止めて、努めて冷静になろうとした。

果たすべき義務、親としての感情、既にこの世に生を受けてしまった私のこと、過去に経験した状況とその時導かれた答え。頭の中を占拠して居座るそれらの思考の奔流をどうにか押し止め、親はどうにか言葉を絞り出した。

「ちょっと私をひとりにしてくれないか?考えたいことがある」

「分かりました。よく考えてください、何が私たちの益になるのかということを」

「……努力する」

 

 

 もう自分と私以外には誰もいない部屋。ベッドの上にせり出す小さな机と、その上に広げられた、自分の失態が詳細に記された報告書に目を通した親は、予備動作の後、深いため息を吐いて一言、

「これはやっぱり…言った方が良いんだろうなぁ…」と。

報告書を汚している、自分が責を負うべき問題事項は、親が改めてスタッフらに知らせずとも、親に認識された瞬間に同じくスタッフら、そして私にも知れ渡っていた。だから、改めて報告する必要はない。ないのだが───

 

「皆はもう既に認識していると思うが、私は5億7489代前と同様の失敗をした。それについて、改めて謝罪する。申し訳ない」

「そして」一呼吸。そのわずかな時間で“次に自分が発そうとしている言葉”を察知した聴衆から即座に非難の意思が親に向けられた。だが、我々にはもう、他の選択をするために割ける程のリソースは残っていない。

「私は、5億7489代前に選ばされたものとは違う道を選ぶ。私は今回の個体を廃棄しない。これを最終決定と心得、そのように行動すること」

その言葉で行き場を奪われた非難が、聴衆それぞれの内側で爆発した。