生まれたてのこじか日記

短期記憶がすぐ消える暇人の肉体から乖離して独立した“書き手”という非実在存在の備忘録 この内容が本当か嘘かは“書き手”自身にも分からない

おはなし5話

 私が次に目を開けた時に見たものは、棘皮動物のように表面から壁に向けて棘を伸ばし、刺さった所に錨を下ろした巨大なガラス球と。それに覆われた、外殻よりもひと回りかふた回り程小さい、灰色の球が浮かんでいる光景だった。

 地球じゃない、と、直感的に思った。だけど、その直感が合ってるかどうかなんて確かめる術はどこにもなかった。

とりあえず、私は自身がまだ重力に逆らったままの状態だったので、もうひとりの私を探した方が良いような気がした。

 改めて、今いる場所から辺りを見回してみたものの、見覚えがあるような/知識にあるような光景はどこにもなかった。

外殻が放つ棘からは、一定の間隔毎にいくつかの薄い板状の物が群になって生えていて、その群に対して1つずつ、立方体やら直方体やら、多面体やら棒やら何やらの、用途の読み取れない塊が結び付けられて浮かんでいるのが見えた。

 私がここから見る限りにおいて、重力に従っているものはひとつもないようだ。

もしかしたら、今の私はつい先ほどまで経験していたように、自分の肉体と分離した状態ではないのかもしれない。ただただこの場所の理に従って、ぷかぷかと浮かんでいるだけなのかもしれない。

 そうだ、手を、足を、身体を見てみよう。さっきまでの感覚が地続きに残っていたから試さなかったけど、今はさっきまでとは違って、あるべき物があるべき場所にあるのではないだろうか?

そう思って手足を動かそうとしてみた。

自分の手足が動いている様を見ようと、視線を身体があるはずの方へ向けながら、手足にぐっ、ぐっ、と力を込めてみた。手足が動いているような感覚が微かに、だが確かに、ある。上手く行けば、視界に手足が入るはず。

にもかかわらず、視界にはちらりとも手足は入ってこなくて、見慣れぬ光景が広がっているだけだった。

 ならば、と、今いる場所から動いてみようと思った。

さっきは天井に背中を掴まれたようで離れることが出来なかったけど、今視線を辿って見た限りにおいて、天井は私よりも遥か上に存在するようだ。少なくとも、今の私の背中は天井には掴まれてはいないようだった。

今ならどこへでも行けるかもしれない。ちょっとだけ、試してみよう。

前後左右、上下斜め、ぐるりと旋回。自分の座標を動かすように念じてみると、手足を動かそうとしてみた時よりも敏感に身体は反応して動いてくれた。

 何も分からない/思い通りにならない状況で、ただそれだけのことに少し涙が出そうになった。

“自分が思い通りにすることが出来る何か”がある、ということが、ここまで精神を安定させてくれるなんて知らなかった。

 

 しばらく自分が動ける喜びに浸った後、今すべきことを思い出した。

そうだ、私は向かい側にいた私を探さなければならない。

でも、動けることが分かった今となって、それはあまり困難なことには思わなかった。今の私なら、もうひとりの私をすぐに見つけられるような気がしている。